それはまるで通り雨のような

高校の同窓会があった。

最近のことだ。

 

そこには僕が昔好きだった女の子もいた、文化祭の忙しい時期に告白し、見事に撃沈したのは苦いながらも良い思い出だ。高校二年生の時のことだ。

 

特徴的な一重の笑顔が可愛く、ショートカットの良く似合う素敵な女の子だった。

 

当時の僕は、クラスの割と端っこの方で男子と馬鹿騒ぎしているか、部室に籠ってグダグダしているような、有体に言ってイケてないグループに属していた。

 

それでもクラスには気のいい奴らが多く、いじられつつもリア充集団の中に楽しく入っていける良いクラスだった。

 

当時マンガにハマっていた僕は、「最終兵器彼女」や「イエスタデイをうたって」など、若干斜に構えたような作品(失礼!)を読んでいた。

クラスの中でも全体的にマンガの貸し借りなんかがされており、少女マンガがもっぱらの話題であった。

 

砂時計やNANA、そして僕等がいたなどなど…。

僕が彼女を初めて意識するようになったのは、彼女が嬉々としてハチミツとクローバーの切なさを説いている姿を見た時だった。

 

普段おとなしかった僕だったが知らないうちに声を掛けていた。

 

「そのマンガ読んでみたい。貸してよ。」

 

少女マンガなんて読んだことはなかった。目的はマンガではなくて彼女だったが、彼女は作品に興味を持って貰えたことが嬉しかったらしく、僕に対してハチクロの迷走ラブストーリーっぷりを熱弁してくれたのだった。

 

そして僕は、すぐに惚れた。

 

共通の趣味があれば恋愛しやすいという考え方は、恋愛経験値が少なかった当時の僕にとっては、何よりも説得力のあるもののように感じられた。(今となっては、趣味は恋愛関係においてそんなに大事ではないということが嫌というほど分かったのだが…。)

 

週一回、彼女と席が近くなる選択の授業があった。

僕はそこで彼女と少しずつ話をし、僕のお気に入りのマンガを貸したり、彼女からハチクロを何回かに分けて借りながら、青春を謳歌しているような気持ちに浸っていたのだった。「竹本がんばれ!マジがんばれ!」「真山はひどいやつだよ…。いや、いいやつなんだけどね!」「山田さんほんと泣けるーー」「はぐ修司さんいっちゃたねー…」等々、自分たちの友達のことのように話をしたのだった。

 

友人たちからは相当にいじられ、まだそんなに仲も深まっていないような状況で、告白を強いられる流れとなった。僕は別にそれに対して特段不快感を覚えていたわけでもなく、「そ、そうだよな!告白しないとな・・!!」とむしろ息巻いていた。

 

とある日、選択授業の後、彼女に寄り道をしないかと提案した。彼女はキョトンとした表情で「珍しいね。なんかあったの?」というようなことを言っていたかと思う。

(あとから聞いたが、すでに僕の想いは筒抜けだったようだ。そらそうだわな。)

 

クラスの奴らや、噂を聞きつけた他クラスのお調子者が、そこそこデカい高校生の図体をひしめき合わせ、僕ら二人の後を追跡していた。その様はまるで出来の悪いコントのようだった。

 

彼女も苦笑いしていたが、僕らは構わず歩き続けた。

 

駅前のマックに2人で立ち寄り、そこで告白をした。もちろん振られた。

 

どうでもいいが、僕はマックシェイクを飲んでいた。彼女はフィレオフィッシュにかぶりついていた。そんなことまで覚えている。

 

彼女からは「そんなにまだお話してないよね?」「今はそういう気分しゃないんだー」等々言われた。

 

俺はショックを受けてはいたものの「だよねーーー!」と内心腑に落ちまくっていた。

 

振られはしたものの、彼女は「すごく嬉しいよ」と言ってくれ、その後2~3時間おしゃべりに付き合ってくれた。なんだか一度だけのデートを許されている気分だったが、彼女との距離が近づいた気がして、とても嬉しかったのを覚えている。

 

彼女とは3年間ずっとクラスがいっしょだったが、それっきり何もなかった。

当時の僕は、それで何となく満足してしまった。

 

 

 

話はそれから8年後になるが、仲のいいメンツでの同窓会で彼女と再び出会ったのがついこの間のことだ。

もちろんそれまでにもクラス会やら何やらで見かけてはいたが、奥手男子だった僕は、気恥ずかしさもあり、彼女と積極的に話すようなことはしなかった。

 

ところが今回の会では、そうはならなかった。

合コンをし過ぎていたせいかは知らないが、僕は開き直ってしまった。

 

あけっぴろげに「あのときはさ~」と傷に塩を塗り込むがごとく、過去を穿り返して楽しんでいた。そういった流れになったのは、彼女がつい最近彼氏と別れた、という話をしたせいもあった。

 

傷ついた心に酒を注ぎ込むようにして酔っぱらった彼女は、僕に対して度を越えて甘えてきていた。手をつなぎ、僕の手を自分の太ももに乗せ、僕の顔や頭をなでたり、ハグを求めたりした。

 

数々の合コンを経て多少のことでは動じなくなっていた僕は、「お前寂しいだけだろ!しっかりせえや!」と頭をパコーンと叩いたりして、ネタにする空気を作っていった。ぶっちゃけ周りは引いてたと思うが、みんなゲラゲラ笑っていた。

 

彼女は「えーー」と文句を垂れそうにいじけながらも、次の瞬間には「んー!」とか言いながらハグしてポーズをとったりしていた。 

 

彼女は元々そういう女を武器にするタイプの子なのは分かっていたが「体の相性は試してみないと分かんないしー」と言われた時には、どこのエロゲだクソ野郎!と内心独り言ちていた。ちなみにアソコはびんびんだった。←

 

彼女は飲み会の後半、終始そんな感じだった。その彼女の親友の女の子から、帰り際彼女を家まで送るように頼まれた。他の友人たちもわざとらしく、俺らは地下鉄だから~とか言いながら帰って行った。

 

これはもうそういうことでいいのかと思った。彼女は僕の腕をとり、ずっと離さなかった。ちなみにアソk(ry

 

こうして、僕と彼女は2人夜の街に取り残された。

あまり頭が回らなくなっていたものの、とりあえず電車に乗ろうと彼女を引っ張って行った。

 

電車に乗ってしばらくすると、彼女は気持ち悪いから降りたいと言った。次の駅で降り、買ってあげた水を飲ませながら、トイレに向かわせた。

 

入り口で、ここからはさすがに一人で行けよ、と僕は言った。

 

彼女はコクっとうなずくと、僕から離れ、振り返り、突然キスをしてきた。

 

一瞬何が起こったのか分からなかった。じんわりと残る唇の柔らかさだけが、その事実を物語っていた。

 

好きだった子と、こんなタイミングでキスするなんて夢にも思わなかった。

 

あの頃の気持ちの残滓が、見え隠れしていた。

 

そして僕は、ぼーっとしながら彼女が出てくるのを待った。

電車は終電が近づいていた。

 

なぜか僕はそこで、改札を出て歩きたいと思った。

ホテルがあるような街の駅ではなかった。

 

僕には彼女の気持ちが分からなかったが、分かろうとすることはできると思った。

 

彼女も「ここで降りるの?」と疑問に思っていたようだが、改札を一緒に出た。

そして雨の中2人で一本の傘を差し、彼女の話を聞き、僕も話をした。

 

彼女は元カレのことを全然忘れられていなかった。

一時的に飲みの楽しさでそれを忘れられていたのだろう。

それを思い出しのか、僕に迷惑をかけていることを詫びたのだった。

 

内心僕は「何人これに引っかかってんだろうな・・・」という仙人のような心持になっていた。「童貞の頃とは一味違うぞ!高校・大学時代の僕よ、見ているか!」とか良く分からない優越感に浸っていた。

 

彼女は「やっぱり帰るね」と言い出した。

僕もその方がいいと思った。

ちなみにアソ(ry

 

彼女の列車を待ちながら、僕らは抱き合い、何度もキスをした。

久しく触れていなかった女の子の体はとても柔らかく、女子特有の甘いようないい匂いがした。

 

明日になれば彼女はこのことを後悔し、次に会うときにはどんな顔をすればいいか分からなくなっていることだろう。それは分かっていたから、名残り惜しむように彼女の頭をなで、抱き寄せ、キスをした。

 

そして彼女は電車に乗り込み、帰って行った。

 

僕は1人ホームに残され、1日中振り続いていた雨の音を聞いた。

 

複雑な心境だった。

 

「通り雨のような女の子だな」と、そんな風に思ったのだった。

 

僕の電車はもうなかった。

 

…end

 

 

 

 

 

 

 

~エピローグ~

そしてぼくは、6000円かけて家までタクシーで帰った。

 

この話は、「酔った勢いで昔好きだった子とやっちゃいました」という話ではない。

 

そう「終電なくしてタクシーで帰った」っていう、そういう普通の話だ!!!

 

以上。悔しくなんか、ない。